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MT時代の英日翻訳サービスの可能性

MT(機械翻訳) / MTPE / クリエイティブ編集の違いから検証する

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MT時代の英日翻訳サービスの可能性

徒然でない業界に身を置き、画面に向かいて日進月歩の英日AI翻訳を否応なく目の当たりにすれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

機械翻訳(MT: Machine Translation)はいずれ人間の翻訳に取って代わると言われ続けて数十年が経ちました。今どこまで進んでいるのでしょうか。30年ほど前の、英語から日本語へのMTを見たことのある方は、「使い物にならない」という印象を今でもお持ちかもしれません。しかし、ここ数年のMTの進歩には目覚ましいものがあり、分野によっては、あと数年で機械がほぼ人間の代わりに翻訳できるようになるかもしれません。そのようなMT時代にはどのような翻訳サービスが可能でしょうか。今回は、MT時代の翻訳サービスの可能性について考えてみたいと思います。

 

<これまでのMTPE>

MTには、大量の案件を短時間で翻訳できるというメリットがあります。また、一般的に、数値などは人手と違って間違うことはありません。しかし、全体的な訳文品質はどうでしょうか。私の経験では、30年ほど前のMTの文章は翻訳といえる代物ではありませんでした。そもそも日本語として文章が成立していないこともよくありました。単文であれば英文解析に失敗しない程度にはなっていましたが、重文や複文、重複文の解析には失敗することがよくあり、その結果として意味不明な文章や、誤訳を生み出していたように思います。当然そのままでは使用できないので、MTの後編集(MTPE: MT Post-editing)は必須でした。

MTPEでは、MTの不備のみを修正することが期待されていました。簡単に聞こえるかもしれませんが、MTPE後の最終成果物に期待されている品質が「ともかく書いてある内容がわかれば良い」というレベルであっても、編集者(翻訳者)は、原文とMTの翻訳を読み、理解し、翻訳に失敗している箇所を特定し、修正する必要があります。

この作業を一文ずつやっていくのですが、一文全体の翻訳が完全に失敗している場合には、最初から訳し直す必要があります。たとえ数百ワードの文書であっても、MTの品質が低い場合には修正にかなりの手間がかかり、場合によっては同じ翻訳者が最初から翻訳するよりも時間がかかることになります。つまり、MT+MTPEが目指す、効率を上げ、納期を短縮するという理想に反した結果になります。さらに、最終成果物に日本語としての読みやすさも要求される場合、MT+MTPEは、スピードと仕上がり品質の両方の点で質の高い翻訳者には敵いませんでした。

 

<NMT(ニューラル機械翻訳)とは?>

しかし、効率が悪く、人手による翻訳よりも作業負荷が高くなることが多かったMTPEの状況は、近年登場したニューラル機械翻訳(NMT: Neural Machine Translation)によって大きく変わりつつあります。NMTでは、機械であるAIがディープラーニング(深層学習)により、人間が書いたものに近い自然な訳文を生成します。文全体の情報を文脈として扱うことができるので、英語と日本語のように語順や構造が異なる言語間でも、比較的高い翻訳精度を実現しています。人間が翻訳した文章を基に訳文の特徴を学習できることも、読みやすさを含めた翻訳精度を上げてきている理由でしょう。

MTの品質の向上を知っていただくために、実際にNMTの翻訳の実力を見てみましょう。NMTとして良く知られているのは、Google翻訳やDeepLですが、ここではDeepLの訳文を例に挙げます。これは、一般的なビジネス文書の一部です。

原文:Our end-to-end customer service is perhaps our greatest strength, summed up in our long-time maxim of “One Stop Shopping.” Alongside the recognized quality of our products, we provide our customers with invaluable industry trend and technology information collected from our global network.

DeepLによる翻訳: 私たちの最大の強みは、”One Stop Shopping “という言葉に集約されるように、エンド・ツー・エンドな顧客サービスです。私たちは、定評ある製品の品質とともに、グローバルなネットワークから収集した業界動向や技術情報をお客様に提供しています。

いかがでしょうか。編集は一切していません。誤訳はありませんし、MTPEを入れるとしたら、クライアント指定のスタイルガイドや用語集に従った修正と、助詞を少し手直しする程度ですみます。

もちろん、翻訳精度は学習するデータの量や質に依存するので、分野によっては30年前のMTより多少マシになっただけというレベルかもしれません。また、NMTの場合、現時点では原文すべてを訳さず一部省略してしまうことがあったり、数字や固有名詞が抜けていたりすることがあります。従って、MTPEは依然として必要ですが、近年のAIの学習能力の高さとスピードを考えると、数年以内に産業分野の英日翻訳はほとんど機械に任せることができるようになっているかもしれません。

 

<MT時代の翻訳サービス>

MTが主流となる未来では、どのような翻訳サービスが可能なのか。これは、産業翻訳サービスを提供している企業にとって非常に現実的な問題となってきています。弊社では、次のようなサービスをご提供できます。

  • MT+人手による翻訳+校閲:MTの出力を確認しながら、翻訳者がスタイルガイドや用語集に従って翻訳します。MTの精度にもよりますが、最初から人手で翻訳するよりも比較的短い納期で完了できます。
  • MTPE:今後、MTの増加に伴って需要も増えていくと考えられます。基本的にMTの校閲になります。翻訳の誤字・脱字の修正、内容の誤りの修正、不足な点の補正、用語とスタイルの統一を行います。MTの精度が上がり、さらに翻訳前にスタイルガイドや用語集を指定して翻訳に適用できるようになれば、MTPEのスピードも上がります。人手による翻訳よりも廉価で、MTの進化に伴って単価はさらに下がっていく可能性があります。予算を低く抑えて、短期間に大量の翻訳が必要な場合に適しているサービスです。
  • MTPE+クリエイティブ編集:MTPE後の翻訳を基にコピーライティングを行います。最終成果物として、MTの翻訳にコピーライティングのような付加価値が加わります。予算を抑えながらも、対象読者目線の文章を求める場合に適しています。人手によるトランスクリエーションよりも比較的短い納期で完了できます。

※註: トランスクリエーション:人手による翻訳ですが、逐語訳ではなく、原文の大意に忠実でありながらも、コピーライティングに近い翻訳になります。このため、対象読者に合わせて文章構成や内容が原文と多少異なる場合もあります。

もちろん、弊社では従来の人手による翻訳サービスもご提供しています。

  • 翻訳+校閲
  • トランスクリエーション+校閲(トランスクリエーションについては上記の註を参照してください。)

 

MTPE+クリエイティブ編集の事例

最後に、MTPE+クリエイティブ編集の事例をご紹介します。

 

事例1.
Japan holds an appeal like no other.  Famous for its beautiful nature, unique culture and rich heritage.  Home to extraordinary cuisine, entertainment and technology.

DeepL翻訳: 日本には、他の国にはない魅力があります。 美しい自然、ユニークな文化、豊かな遺産で知られる日本。また、料理、エンターテインメント、テクノロジーも素晴らしい。

MTPE: 日本には、他の国にはない魅力があります。美しい自然、独自の文化、豊かな遺産で知られる日本。また、食、エンターテインメント、テクノロジーでも有名です。

クリエイティブ編集の例:

唯一無二の魅力を持つ国、日本。その美しい自然、独自の文化、豊かな歴史と伝統は、世界にその名を轟かせています。また、魅力的な食文化、さまざまなエンターテインメント、最先端のテクノロジーは、世界中の誰もが知っているものでしょう。

 

事例2.
Conservation of the environment is perhaps the most important issue facing the planet today. Our ME strategy aims to balance growth and innovation with environmental considerations.

DeepL翻訳: 環境の保全は、今日の地球が直面する最も重要な問題でしょう。当社のME戦略は、成長と革新と環境配慮のバランスをとることを目的としています。

MTPE: 環境の保全は今日の地球が直面する最も重要な問題でしょう。当社のME戦略は、成長と革新と環境配慮のバランスをとることを目的としています。

クリエイティブ編集の例:

環境の保全は現在の地球にとって最も大きな課題だと言えます。当社のME戦略は、環境に配慮しながら成長とイノベーションのバランスを取ることを目標に掲げています。

 

事例3.
Like in nature, the bold forms of the mountain-like buildings settle into a surrounding landscape of organic shapes.  Green is all around. With one of the domestic largest gardens at its heart, that resort facility is a living, breathing creature, sustainably fuelled by the wind and the sun.

DeepL翻訳: 自然界と同じように、山のような建物の大胆なフォルムは、有機的な形状の周囲の風景に溶け込んでいます。  緑に包まれる。国内最大級の庭園を中心に、そのリゾート施設は、風と太陽の恵みを受けて持続的に呼吸する生き物なのです。

MTPE: 雄大な山を連想させる建物は、自然界と同じように、有機的な形状の周囲の風景に溶け込んでいます。緑に溢れた国内最大級の庭園を中心に据えたこのリゾート施設は、風と太陽の恵みを受けて持続的に呼吸する生き物なのです。

クリエイティブ編集の例:

雄大な山にも見える建物が、緑あふれる周囲の風景に溶け込む姿はまるで自然の姿そのもの。国内最大級のガーデンを中心に据えたその佇まいは、まさに風力と太陽光によって呼吸し続ける生き物のようです。

 

今回はMT時代の英日翻訳サービスの可能性について取り上げました。日本語から英語または英語と他のヨーロッパやアジア言語間のMT事情については、弊社の英語ブログで取り上げたいと思います。

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